今、絵を描くこと。

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「やさしい絵を描かれますね」

６月の晴れた日だった。

会うのは初めてなのに、

まして手元に絵など一枚も置いていない状況なのに、

その人は微笑みながら、そう伝えてくれた。



「えーっ、どこで見られたんですか？」

無粋なことを尋ね、その人を戸惑わせてしまったが、

でも本当に嬉しかったのだ。


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その年の夏、私は拙作の絵葉書をプレゼントした。

やがて秋が訪れ季節が深まるにつれ、お互いの距離も縮まっていった。


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けれども「やさしい絵」を描く私自身は、

へりくだって言う訳では決してなく、むしろひどい人間であった。



結果的にその人を深く傷つけることになり、ゆききは途絶えた。

年の暮れだった。





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ごんぎつねが、栗や松茸を毎日兵十のもとへこっそりと届けるように、

私は今でもせっせと絵を描きつづけている。






ごんも私も、その思いは相手に伝わるのかどうか、

物語の結末は知らない。

でも、せめてこうすることによって、

つぐないの気持ちをあらわしたいと思っている。




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まだ私の絵にわずかでもやさしさが残っていれば、

描きつづけていくうちに、

こんな自分も、もう少し、ましな人間になれるかもしれないナ。



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