虚ろな目のマリア
今まで描いてきたなかで
一番の生みの苦しみを味わった絵にまつわるエトセトラ。
すみません、話せば長くなります。
* * * * * * * *
クリスマスをテーマにした絵を12月の合同展示会で発表するため、
2007年の夏
私はウンウン唸りながらラフ画を描きなぐっていた。
* * * * * * * *
中間発表の場で提示したものに対して、仲間たちは首をかしげた。
「自分にしか分からない絵っていうのはどうなのかなと思う」
Sちゃんからスルドイ一言を頂戴した。
いろんな思いとともに涙が溢れ出してとまらなかった。
とかくひとりよがりになりがちで、
いつも反省しては
いつの間にか同じことの繰り返しなのだけど、
少なくとも世に出す芸術作品においては、
それが絵画であれ音楽であれ文学であれ
誰もが心の底に持つ共通項を掴み取らなければ・・・
要するに
他の人にも「ああそうだよね、わかる」と
共感してもらえなければ、失格なのだ と気づかされた。
一からやり直しだ。
* * * * * * * *
秋になってもウンウン唸りっぱなしの私に、Sちゃんは
一冊の本を紹介してくれた。
遠藤周作『聖書のなかの女性たち』。
彼女が卒論のテーマとして取り上げた作家だった。
本の中に以下のような描写があった。
「聖ルカ福音書には
『マリア、産期みちて子を生み、布に包みて馬槽に臥させおきたり』
と簡潔に記していますが、
マリアがキリストを生んだその洞窟にも馬や牛の糞や、
吐き気のするような臭いがこもっていたにちがいないのです。
藁の上にマリアは体を横たえ、
ヨセフ以外には誰も助けてくれる友人もなく、
その瞬間のくるのを
額を汗で濡らしながら待っていたのでしょう」
* * * * * * * *
完成した作品を、Sちゃんは展示会の搬入の際に見てくれた。
たったひとこと
「泣きそう」
ポロッと一粒こぼれるような呟きだった。
* * * * * * * *
すべてが終わった打ち上げの時に
私が描いたマリアの話になり、
彼女がボソッともらした言葉も忘れずにいる。
「あの子のなかに、あの女の人の虚ろな目がある」
作為的に描いた中の無作為な部分に、作家の真実はあらわれる。
思いあたる過去があった。
その過去は、自分にしか分からないことである。
それでも他の誰かに、このような形で伝えることができるんだ。
* * * * * * * *
かつての出来事を作品として昇華することができ、
他の人の心に、ほんの少しでも触れるものを遺すことができて、
作者冥利に尽きる
と言っても、私にとっては過言ではないです。
最後に、Sちゃんの友情に深く感謝。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくれてありがとう。
もし良かったら、こちら↓
http://www.yamaguchi-blog.com/wj.php?cd=006p
をぽちっとヾ(∂。∂)*押してね。山口ブログです。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
一番の生みの苦しみを味わった絵にまつわるエトセトラ。
すみません、話せば長くなります。
* * * * * * * *
クリスマスをテーマにした絵を12月の合同展示会で発表するため、
2007年の夏
私はウンウン唸りながらラフ画を描きなぐっていた。
* * * * * * * *
中間発表の場で提示したものに対して、仲間たちは首をかしげた。
「自分にしか分からない絵っていうのはどうなのかなと思う」
Sちゃんからスルドイ一言を頂戴した。
いろんな思いとともに涙が溢れ出してとまらなかった。
とかくひとりよがりになりがちで、
いつも反省しては
いつの間にか同じことの繰り返しなのだけど、
少なくとも世に出す芸術作品においては、
それが絵画であれ音楽であれ文学であれ
誰もが心の底に持つ共通項を掴み取らなければ・・・
要するに
他の人にも「ああそうだよね、わかる」と
共感してもらえなければ、失格なのだ と気づかされた。
一からやり直しだ。
* * * * * * * *
秋になってもウンウン唸りっぱなしの私に、Sちゃんは
一冊の本を紹介してくれた。
遠藤周作『聖書のなかの女性たち』。
彼女が卒論のテーマとして取り上げた作家だった。
本の中に以下のような描写があった。
「聖ルカ福音書には
『マリア、産期みちて子を生み、布に包みて馬槽に臥させおきたり』
と簡潔に記していますが、
マリアがキリストを生んだその洞窟にも馬や牛の糞や、
吐き気のするような臭いがこもっていたにちがいないのです。
藁の上にマリアは体を横たえ、
ヨセフ以外には誰も助けてくれる友人もなく、
その瞬間のくるのを
額を汗で濡らしながら待っていたのでしょう」
* * * * * * * *
完成した作品を、Sちゃんは展示会の搬入の際に見てくれた。
たったひとこと
「泣きそう」
ポロッと一粒こぼれるような呟きだった。
* * * * * * * *
すべてが終わった打ち上げの時に
私が描いたマリアの話になり、
彼女がボソッともらした言葉も忘れずにいる。
「あの子のなかに、あの女の人の虚ろな目がある」
作為的に描いた中の無作為な部分に、作家の真実はあらわれる。
思いあたる過去があった。
その過去は、自分にしか分からないことである。
それでも他の誰かに、このような形で伝えることができるんだ。
* * * * * * * *
かつての出来事を作品として昇華することができ、
他の人の心に、ほんの少しでも触れるものを遺すことができて、
作者冥利に尽きる
と言っても、私にとっては過言ではないです。
最後に、Sちゃんの友情に深く感謝。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくれてありがとう。
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